この本では、『節税対策はキャッシュを回転させるための施策』と書かれてあります。
売り上げを上げるためにキャッシュを使うことで重要であり、そのために経営があるということなのだそうです。経営とはと聞かれると、売上を上げること、あるいは利益を出すことというような答えが一般的ですが、そうではなく、そのような状態になるためにはどのようにお金を使うのかが重要であると、そういう話です。
全ての法人には納税義務が課されます。しかし、その額は必ずしも一定ではありません。知識の有無によって納税額が増減しているのが事実です。少なくとも、何ら対策をしないでおきながら、法人税を減らすことは不可能です。著者は企業5年目くらいまでは可能な限り節税をしてその節税分を事業投資に回すなどして経営を安定させることに使うべきといいます。
キャッシュの使い道は投資、消費、浪費という3つのパターンに分けることができるそうです。
投資はリターンが期待できるもの
消費は必要不可欠なもの
浪費は無駄なもの
これらのどの使い道に該当するのかをよく見極めなくてはなりません。むろん、浪費は論外ですが、消費と浪費の境目は案外あやふやであり、その時の状況、環境によって意味合いが変わってくるといえます。
こうしたことを意識することでキャッシュフロー対応は自然と経営に即した対策の中心に位置付けられていきます。そしてそれこそが節税対策となっていくわけです。目先の節税にとらわれ過ぎてしまい、中長期の視点を欠いてしまっては節税そのものの意味がなくなってしまいます。
税理士が主導する節税対策も、多くは一時的な節税でしかないものがたくさんあります。期末に慌てて節税対策をしてみても、将来のある時点で結局課税されてしまうわけです。数年というくくりでは課税額は結局同じということも少なくはなく、節税対策に消極的な税理士の中にはそれでは意味がないという指摘をされる方もいます。
しかし、著者に言わせれば、これはやや視点が狭いと言わざるを得ないそうです。
なぜならば、節税時点での売り上げ推移がその後もつづくのであれば確かにやる意味はないかもしれませんが、万が一、売り上げが急降下して低迷すると節税分は企業体力の回復に役立てられるからです。そういう時は赤字の穴埋めに使うことができるわけで、本来は赤字だったものが黒字になっている、あるいは大幅赤字が小幅な赤字で済んでいるということも可能になってきます。そうなると、課税の繰り延べで節税した意味がなかったという状況は幸せな状況だと認識すべきというわけです。
そう考えてみると、節税というのは本来は税金として自分の手元から離れていくお金を、節税対策を駆使することで自分の手の範囲内にとどめておく行為ということができ、この本ではそれを『稼いだキャッシュに鎖をつける作業』と読んでいます。
節税というモノに対する見方はそれぞれですが、この本を読むことで新たな視点が増えるのは確実であり、それを考えると税金について悩んでいる経営者や経理担当者は読んでおいて損はない一冊といえるでしょう。